夫婦間の相談はやはり多く、今回相談に訪れた女性も二人の子供を持つ主婦だった。高級ブランド品をいくつも身に付けていることから、家は裕福であることが一目で分かる。それから気づいた点といったら、とても落ち着きがなくイライラしているようだった。まずは名刺を取り出し自己紹介をしようとすると、開口一番「夫が浮気しているのは間違いないんです。とにかく調べてください。」と大声で話し始めた。非常に神経が高ぶっている様子だったので一呼吸間を取り、それからゆっくりとこれまでの経緯を説明してもらうことにした。
夫が浮気しているのではと感じ始めたのはおよそ2年前。開業医である夫は自宅からそう遠くない場所で病院を経営しているそうだが、この頃まっすぐ帰宅しない日が続いたという。帰宅した夫に何度も詰め寄ったが、夫は「浮気なんかしていない」の一点張りだった。その後は夫の帰りが遅くなるたびに問いただして口論となり、結局夫婦関係は修復不可能な状態に陥ってしまったようだ。さらに蓄積されたストレスの影響で、依頼者の精神状態が普通でないことは誰の目にも明らかだった。タバコを持つ手は震え、目は焦点が定まらずに瞬きばかりを繰り返し、しばしば感情的になり声を荒立てるといった様子。依頼者もそれなりに自覚はあるようで、自宅では物を投げつけたり、子供にも時折辛く当たったりしてしまうことからこのままではいけないと思ったのだろう。最後に依頼者の本心を確認したところ、できれば離婚はしたくないということだった。
約1ヶ月間に及ぶ行動調査の結果、結局夫が浮気をしている事実は判明しなかった。しかしながら弁護士と面会し、着々と離婚の準備を進めていることがわかった。そうなると、万一夫が浮気していたとしても、離婚を有利に運ぶための大切な時期と判断し、一時的に浮気相手と会うことを避けているのかもしれない。もしくは本当に浮気の事実はないが、妻の精神状態に耐え兼ねた挙句の決断なのかもしれない。ただし今となっては真実を知る由もない。
たとえ浮気調査の結果が黒であったとしても、必ずしも離婚という結末だけではないのだ。浮気を素直に認め、その後は同じ過ちを繰り返すことなく前以上に絆を深めた夫婦も中にはいる。大事なのは疑いをそのまま放置せずに、事実を明らかにしたうえでその先どうすればよいかを考えることだと思う。