相談に訪れた女性は50代前半ということで、まだまだこれから十分に人生を謳歌できる年齢にもかかわらず、人生にくたびれ果てた様子で年齢以上に老け込んで私の目には映った。相談内容は夫の浮気調査だったが、すでに浮気は確信しており離婚のための証拠収集が目的だという。
会社を経営する夫の異変に疑いを持ち始めたのは今からおよそ15年前。当初は仕事が忙しいから会社に泊まるという夫の言葉を信じていたものの、そのうち帰宅しない日が徐々に増え、そしてとうとう家にはほとんど寄り付かなくなってしまったそうだ。依頼者は控えめで尚且つ内気な性格から、はっきりと夫を問いただすこともせず、とうとう悩み疲れてすべてがどうでもよくなってしまい、十数年という長い年月が経過してしまったのだろう。また、専業主婦で勤めに出た経験のない依頼者からしてみれば、万一離婚した場合、自分一人の手でこれから先どうやって子供を育てていけばいいのだろうといった大きな不安が、依頼者を直面している現実問題から遠ざけてしまっていたのかもしれない。しかしながら、現状から逃げていたのでは母親が一生不幸なままだと思っていた子供たちの強い説得もあり、何とか重い腰を上げて今回の調査に踏み切ったのだ。
調査は退社後の夫を尾行し、一体どこで寝泊りしているかを判明させると同時に、浮気の証拠を収集することだった。さすがに十数年間調査などは一切されたことがないため、警戒の「け」の字も見せずに車を走らせ、その後夫はとある一軒家に入っていった。さらに調査を続け浮気の証拠収集にも成功したが、依頼者に事実を伝えなければならないことを考えると、調査が成功したにもかかわらず何とも気が重かった。
後日依頼者に会って調査結果を報告し、まずはやはり浮気の事実が認められことを伝えて証拠を提出した。そして話は夫の居住先へと移り、女性と一軒家を購入していた事実、表札には二人の名前が記され夫婦同然に生活を続けている事実を伝えた。依頼者が平静を保とうと必死になっている様子は手に取るように伝わり、しばらくの間お互い無言の状態が続いた。その後重い口を開いた依頼者の話によると、家を購入していたことに驚かされたのと同時に、その所在地は夫と新婚当初に結婚生活を送っていた思い出の場所だったという。
最終的には弁護士を紹介してようやく離婚は成立したわけだが、なぜこれほどまでに長い間、依頼者は苦しみ続けなければならなかったのかとつくづく考えさせたれた案件だった。一人で悩みを抱え込まずに、知人や我々のような所にでも相談することはできなかったのだろうか。せめて今までの分、これからは第二の人生を心穏やかに送っていただきたいものである。